前頭葉の3つの部分

 精神疾患は、薬物療法だけでは、治りにくい人が多いのですが、それが、前頭前野や帯状回の機能低下によるためではないでしょうか。そういう部位の変調の回復に有効な薬がまだないということでしょう。
 心の病気について、前頭前野や帯状回が重要な関係がありますので、その機能を一覧しておきます。
 次の表をみると、次のようなことが推測されます。  精神疾患を治すには、こういう部位を選択的に活性化する心理療法の技法が開発される必要があるのではないでしょうか。

3つの部位

 前頭前野は肉眼解剖学的に、背外側面、眼窩面、内側面(前帯状回)の3つの部分にわかれる。(671頁)これらは、図1に示すように、前頭前野の各領域は異なる神経回路を形成している。
 それぞれの部位に障害があると、次の機能に障害が生じる。(注1)

前頭前野、3つの部位

 前頭前野の部位の脳血管障害によって、次の障害が起きることから、それぞれの部位の役割がわかる。
前頭前野の部位 障害される機能
背外側前頭前野
  • 作業記憶(ワーキングメモリ)の低下
  • 注意集中、注意制御機能の低下=物事に集中できない。持続性、選択性、分配性。
  • 判断力の低下
  • 目標達成のための企画遂行、計画性、問題解決能力=目標設定、計画をたて、それにそって行動し、モニタリング、行動を制御。
    計画性、問題解決能力=物事を整理し順序よく実行したり、正確に判断し、計画をたてることができない。時間を配分する、先を見通すなどの概念形成能力が低下する。その結果、問題解決能力が低下する。
  • 学習能力=経験から学習できない、新しいことが学習できない。
  • 我慢できない
  • 行動・発話:を行うにあたり時間の前後関係を統合的に調節する。
  • 自発性=自発性に乏しくなる。口数が少なくなる。発動性、発話。
  • 保続傾向、固執傾向=いったん誘発された反応や知覚が不適切に繰り返される。構え(セット)の転換障害。
  • 関心、興味=無関心、周囲に対する関心、興味を失う。セックスに対する興味を失う。
  • 自信の喪失
眼窩前頭前野
    前頭前野眼窩部は大脳辺縁系との連携があり、この部の障害では辺縁系の活動の調整、統合に障害が生じる。
  • 抑制力の低下=衝動をおさえられない(いわゆる強迫性)。
  • 衝動的行動=性急、考えずに行動する、爆発的、攻撃的行為、怒りっぽい、不適切な言動(わいせつな発言や行為、悪ふざけ、軽薄な行為、窃盗、過食)など、自己制御ができず、それが適切でないことを意識しているが反社会的行動に走ってしまう。抑制のきかない、無神経な、場面に不適切な行動がみられる。
  • 無茶な判断・行動= 意思決定をする際、前頭眼窩部障害患者は不利益な結果を恐れず、高いリスク(結果として大成功か大失敗につながる)を冒すことがあるという。これは辺縁系との連絡が途絶えることとも関与しており、単なる脱抑制、衝動的な行為の結果ではないという。
  • 転導性・被刺激性の亢進 =すぐ気が散って本来の行動が中断する、模倣行為、。
  • 思いやりの欠如=周囲に対する思いやり、配慮が欠けてくる。つまり相手の気持ちを読む力、同情心、感情の移入などが損なわれる。
    対人関係の問題=この部の障害での企画遂行障害は感情や衝動統制、対人関係の調整ができないことに原因があり、背外側の障害でみられるような記憶力、注意力、作業記憶などの認知機能には明らかな異常はみられない。知能検査も正常である。
    人格障害と誤診される=時としてその行動が突発的な事件に発展し、犯罪にむすびつくことがある。また人格が崩壊し反社会的人格者の示す行動(仮性あるいは二次性精神病質)がみられ、人格障害と誤診されることもある。 (脳血管障害やうつ病(特に非定型うつ病)であるにもかかわらず)
前帯状回 この部に関係するのは帯状回と補助運動野であり、この領域の機能のバランスが崩れることによって様々な症状がみられる。
  • 発動性低下、意欲低下、発語低下、運動量低下、無関心、無感動
    帯状回と補助運動野の連絡が絶たれる(両側帯状回の障害)と発動性の低下、周囲に対する無関心、興味の喪失など、いわゆるabulic syndromeがみられる。何ごともやる気がなくなり(意欲低下)、発話量は減り、寡動となる。表情も乏しくなる。その結果、企画遂行障害がみられる。障害が広範な場合は無言無動症となる。
    前部帯状回と視床との連絡が絶たれる場合も無関心状態になる。片側の帯状回の障害では運動無視がみられることがあるが、これは片側性のabuliaと解釈できる。


(図1)機能別にみた前頭前野と皮質下核を結ぶ神経回路

背外側前頭前野
(DLPFC)
←┐

眼窩前頭皮質

←┐

前帯状回

←┐

尾状核(背外側)



尾状核(背内側)


側坐核
(腹側線状体)



淡蒼球(背側)/黒質


淡蒼球(内側)/黒質



淡蒼球(腹側)/黒質



視床
(前腹側、背内側)


→┘

視床
(前腹側、背内側)

→┘

視床
(背内側)

→┘

「変性疾患と前頭前野」長濱康弘(滋賀県立成人病センター)( 「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005/No.6,Vol.23。672頁。)