前頭前野と繰り返される情動行為

 ワーキングメモリについて、和歌山県立医科大学の、西林宏起氏、板倉徹氏が、「前頭前野の外傷」について、論文を掲載している(注1)。

作業記憶、ワーキングメモリ

 前頭前野が事故の損傷や腫瘍による手術での切除などで、損傷を受けると、障害が起きる。 うつ病、パニック障害ほか、多くの精神疾患で、回避、依存などの行為が繰り返される点では、過去の反応が記憶されていて、同じ行為をとってしまう点で類似する。情動や衝動は、強力であり、言葉だけの単なる説得だけでは、形成された行動パターンは修正されにくい。前頭前野の活性が低下している場合には、特に、過去の情動パターン、行動パターンの抑制が困難であろう。
 うつ病の重症者では、面接を繰り返して、頭では自殺念慮は、病気の症状だから自殺を決行しないと 約束していても、抑うつ気分がひどいときには、自殺念慮が出てくると訴える。パニック障害の人は、治療の結果、寛解に至っても、強い情動体験が起きると、再びパニック発作(嘔き気など)が起きることがある。このような例をみると、思考、論理によらずに、誘発される自殺念慮や発作がある。これは、思考、意識が関与しない反応であり、「いったん誘発された反応や知覚が不適切に繰り返される保続」に類似する。思考では、直接、誘発を止めることはできず、長期的な前頭前野の活性化によるほかないのではないか。つまり、うつ病やパニック障害の重症な障害は、短期間の相談だけでは、治らないことを示唆する。長期的な取り組み、前頭前野の活性化の治療が要請されることが推測される。自殺防止対策、ニート解消対策に、そのような配慮が必要であろう。
 うつ病やパニック障害が「新療法」で、寛解した場合、課題にした自己洞察法を、生涯、実行するように指導する。職場や家庭で、行動中にも、感情に激しないように、常に気をつけているように実行することを助言する。すなわち、「動的機能分析法」である。毎日、30分、腹式呼吸法を行え(「静中、基本的機能分析法」)ば、十分というのではない。常に、自分の心を観察している。動的な制御である。再発しない人は、そうするが、再発する人は、油断して自己洞察法を実行しなくなって、大きなストレスに遭遇した時、また、感情を大きくゆるがすので、同じ障害(うつは、うつを。パニック発作はパニック発作を。過食は過食を。飲酒は飲酒を)を誘発する。誘発刺激と反応パターンが保持されているようである。つまり、心の傷のようになっていて、同じ傷、同じ症状が繰り返されるようである。
 パーソナリティ障害や非行・犯罪、虐待、家庭内暴力などにみられる「易怒性」も、「情動による行為を制御」できないという問題も、前頭前野の活性化を治療や更正プログラムにおりこまないと、言葉だけの説示では、改善しないのではないか。
 「新療法」は、注意集中、選択力のスキル訓練を行うことによって、クライアントの非機能的行動を制御できるようにして、生み出される行動が、病気や非行・犯罪にならないようにすることをめざしている、といえるが、前頭前野の活性化には、どのような技法を追加するべきなのか、障害、問題によって異なるから、研究が必要である。
 クライアントの人は、言葉だけの説示では、固く保持された反応パターンの修正には、長期間かかkるので、重症の疾患や長期化した疾患は、簡単に治るとは期待できない。毎週か隔週に、反応パターンの修正の訓練に参加しないと、治りにくいだろう。だから、全部の県に、数カ所、前頭前野の活性化訓練のカウンセリング所ができることが、長引く社会問題の改善になると思われる。)