注意・制御の前頭前野と自己洞察法(1)

 =(1)前頭前野の注意機能

 注意を集中できる力、注意をいつまでも同じものに向け続けず重要なものに注意を転じる力は、なにげないことのように思えるが、実は、重要な力である。これが損なわれると、心の病気になる。
 注意、集中力、転じる、制御する機能について関連ある研究成果をみてきた(注1)。
 ここで、「自己洞察瞑想療法」との関係を考察しておきたい。

(A)前頭前野と繰り返される情動行為

 ワーキングメモリについて、和歌山県立医科大学の、西林宏起氏、板倉徹氏が、「前頭前野の外傷」について、論文を掲載している。 (記事→ 前頭前野と繰り返される情動行為)
 前頭前野が事故の損傷や腫瘍による手術での切除などで、損傷を受けると、障害が起きる。

(B)前頭前野の3つの部分

 滋賀県立成人病センターの長濱康弘氏が、「変性疾患と前頭前野」という論文を掲載している(注1)。これで、前頭前野の3つの部分のあることを説明しておられる。(記事→ 前頭前野の3つの部分)
 それぞれの部位に障害があると、次の機能に障害が生じる。(672頁)
前頭前野の部位 障害される機能
背外側前頭前野
  • 注意制御 =持続性、選択性、分配性。
  • 実行機能=(目標設定、計画をたて、それにそって行動し、モニタリング、行動を制御)。行動・発話:を行うにあたり時間の前後関係を統合的に調節する。選択的注意、Working memory、予測的構え、モニタリング。
  • 発動性、発話、構えの転換、計画性、問題解決能力。
眼窩前頭皮質
  • 転導性・被刺激性の亢進 =すぐ気が散って本来の行動が中断する、模倣行為、衝動的行動。
  • 社会性の障害=抑制のきかない、無神経な、場面に不適切な行動がみられる。
前帯状回
  • アパシー=発動性低下、意欲低下、発語低下、運動量低下、無関心、無感動
 強迫性障害、強迫性パーソナリティ障害、注意欠陥・多動性障害には、注意制御、実行機能が低下しているとみられる。不安障害(パニック障害、対人恐怖、全般性不安障害など)の多くが、特定のものに対する不安、全般的な不安に対して「注意」が固着して、制御が困難になっているとみられる。「制御」は、次の(D)でみるが、「注意による認知機能の制御とは、ある認知活動を一過性に中断し他のより重要な情報に反応したり、2つ以上の刺激に同時に注意を向けたりするような、目的志向的な行動を制御する機能を指す。」という。後に、ふれるが、不安に注意を向けすぎて、その注意を中断できないで、通常の生活が阻害されてしまう状況とみられる。こういう「注意」という微妙な心理は、薬物療法では限界があるだろう。薬物療法は、「不安」をゼロにする方針だろう。だが、それでは、他の豊かな感情までも抑圧するだろう。不安があっても、自分の注意力で、不安から注意をそらして、本来の目的に注意を向けるという心理療法の方針は、尊重されるべきだろう。
 うつ病の患者には、「アパシー」の症状もみられる。前帯状回が損傷されると「発動性低下、意欲低下、発語低下、運動量低下、無関心、無感動」がみられるというのだが、セロトニンに作用する薬物療法で、これが標的となるのか。うつ病にもアパシーのような症状もあるが、薬物療法の副作用で、一層、アパシーが強化される人もいるようである。

(C)注意の3つの要素

 「汎用ワーキングメモリ」の要素の一つに、「注意」がある。これについては、別の論文に、3つの要素からなるという指摘がある(注2)。)。(詳細は、別にふれる) (記事→ 前頭前野とワーキングメモリ)
「新療法」は、マインドフルネス、アクセプタンスで、まさに、この「注意」の3つのスキルを向上させるのが、重要な方針となっていて、そのために種々の技法がある。詳細は、別な機会に考察する。)

(D)3つ目の「制御」

 こうして、考察を保留してきた。ここで、簡単に考察したい。
 「自己洞察瞑想療法」の技法を、次の記事に図で示した。  今回は、この前頭前野の「注意」機能と、「自己洞察瞑想療法」の技法の関係について考察したい。

 前頭前野の機能の一つとしての「注意」には3つのコンポーネントがあり、(a)選択機能、(b)覚度ないし維持機能、(c)制御機能であるという。(C)の記事では、3つ目の「制御」については、引用しなかった。制御機能は、次の機能である。  健常な人は、注意機能、すなわち、(a)選択機能、(b)覚度ないし維持機能、(c)制御機能が、バランスよく行われている。しかし、心の病気になる人(非行・犯罪を犯す人も)は、このような機能が偏っていると言える。「自己洞察瞑想療法」の技法は、心の訓練によって、注意の3つの機能の向上をはかろうとする側面があるといえる。(心の病気もこれだけで起きるのではなく、「自己洞察瞑想療法」も注意だけではないが、「自己洞察瞑想療法」の長所を理解していただくために、今は、「注意」に焦点をあてる。)

(続)文字数が多くなったので、別の記事にします。 (→ (2)前頭前野の注意機能と自己洞察法)