注意・制御の前頭前野と自己洞察法(2)

 =(2)活動低下した前頭前野の行動を高める方法

 前頭前野には、種々の機能があるが、今は、注意機能に焦点をあてよう。  健常な人の前頭前野は、注意機能、すなわち、(a)選択機能、(b)覚度ないし維持機能、(c)制御機能が、バランスよく行われている。しかし、脳の障害などが起きると、注意機能が低下するという。外傷によらず、心理的ストレスでも、前頭前野の機能がおとろえているようだ。ここでは、「うつ病」に限って考察する。

(A)前頭前野と繰り返される情動行為

 前頭前野が事故の損傷や腫瘍による手術での切除などで、損傷を受けると、障害が起きる。(記事→ 前頭前野と繰り返される情動行為)
(「いったん誘発された反応や知覚が不適切に繰り返される」は、うつ病には、抑うつ気分から、希死念慮、自殺念慮が誘発されることがよく知られている。「易興奮性や感情鈍麻などの情動の変化、あるいは情動による行為を制御したり促進したりできなくなる」「無関心無欲状態」も同様に、うつ病にみられる。 )

(B)前頭前野の3つの部分

 前頭前野は3つの部分に分けることができるが、そこに障害が起きると、それぞれ、異なる機能障害が起きる。(記事→ 前頭前野の3つの部分)
 こうして、うつ病になると、前頭前野の機能が低下していることが推測され、そのような研究もある(記事→ うつ病と前頭前野)。
 このような機能が改善すれば、うつ病が軽快したということになるだろう。もし、薬物療法で、こういう症状を改善できればいいのだが、セロトニン神経に作用する(そして、そこから前頭前野に作用するのだろう。)抗うつ薬では、症状が好転しない患者がいる。
 機能が低下しているのを、薬物療法以外の方法で、あえて、その本来の機能のとおりに、働くように押し上げるように、行動療法を使えば、症状が改善するのだろうか。つまり、前頭前野の活性化が落ちている、反応が低下している部分をあえて、行動的技法で動かしてみる。その部位を興奮させるということになる。これは、うつ病は、回避であり、回避行動とは逆に行動を活性化すればうつ病の症状が改善するという「行動活性化療法」の方針である。日本では、うつ病の治療にはほとんど行われていないが、薬物療法で治らない人には、行ってみる価値がある。(記事→ 行動活性化療法)
 そういう視点から、前頭前野の機能の低下とされている機能を、行動的技法として行うことができるものがあるかを検討してみる。
(1)意欲
 意欲は難しい。意欲がないのを、意欲を持たせるのは、難しいが、行動活性化療法では、うつ病患者でも、小さな快行動をすることをすすめる。うつ病を引き起こした仕事などへの行動ではなくて、それ以外のところでの、快いことをすすめる技法がある。
(2)運動量
 そのような快いことのなかに、その患者の好きな「運動」があれば、前頭前野の機能を活性化することが推測される。
(3)「発語」
 「発語」によって、前頭前野の機能が低下したのを改善する行動療法的な治療を行っているのが、東北大学の川島教授である。認知症の患者に行っている「音読療法」である。(記事→ 認知症/前頭前野と音読・計算)
うつ病の場合にも、音読療法が効果があるのかどうかは、日本では、研究されていないだろう。
(4)「注意機能」
 前頭前野の重要な機能に「注意」がある。この機能の向上は、自己洞察瞑想療法には重要な関係がある。


(続)「注意機能」については、別の記事にします。 (→ (3)前頭前野の注意機能と自己洞察法)