”キレる子”の防止・前頭前野の活性

 NHK総合テレビ「クローズアップ現代」で、「脳科学で防ぐ”キレる子”」を放送した。(2006年5月10日)
 子供が突然、激しい怒りをみせる、”キレる”。少年は、感情を爆発させると、暴力、いじめや、傷害事件を起こすことにもなる。最近の脳科学の成果から、子どもの”キレる”のを防ぐ方法をみつけようと、文部科学省が研究を始めた。
 子どもがキレるのを防ぐには、扁桃体を健全に育てなければいけない。どんな刺激が、扁桃体の成長をうながすのか、多くの研究者によって研究されてきた。  親、先生、友達との楽しいコミュニケーションが扁桃体を成長させることがわかった。幼児のころ、そのような健全な環境が大切であることがわかった。

 前頭前野を成長させるには、どうすればいいか。  光トポグラフィーで、脳の働きが解明されてきた。
感情は、扁桃体で起こす。扁桃体の感情を前頭前野が制御する。 怒りの制御は、前頭前野の中央部の「46野」が働くことがわかった。
 前頭前野を成長させるには、どのような刺激すればいいか、研究されてきた。同じように、他者とコミュニケーションをとって、他者の表情をよみとることが前頭前野を活性化することがわかってきた。
 激しい怒りを起こさないで、適切に、感情を制御する人を育てるには、幼い頃や児童の頃、楽しい豊かな体験を重ねることが大切である。宇都宮の幼稚園では、毎朝30分、「じゃれつき遊び」をさせている。終わると、おとなしくかたづける(これがブレーキの役目を果たす前頭前野の訓練になっていると考えられる)。これを行うと、子供が落ち着くという。感情を抑制する力が高くなっている。
 兵庫県の少年院でも、ある訓練プログラムが行われている。ここには、 感情をコントロールできず、傷害事件を起こした少年が収容されている。 おだやかなコミュニケーションをとって、感情をコントロールする模擬訓練を行う。 話しあいをすることも、コミュニケーションになる。ここに滞在して1年、この訓練をした結果、怒りを適切に表現する力が、ほぼ一般のレベルまで向上するという。十代後半でも、適切な訓練をすれば、感情の成長の遅れをとりもどせるようだという。
 このような脳科学の成果から、子どもがすこやかに育てる環境づくりが大切だということがわかってきた。(以上が、テレビ放送の概略)

 幼児の虐待、あまりに厳しい親のしつけ、幼い頃に体験する家庭の不幸、いじめ、などによる、つらい体験の繰り返しの悪い影響が、わかってきたわけである。こういう環境で育てられる子は、扁桃体や前頭前野が健全な成長をしない傾向がある。少年のうちに、キレる傾向を治すことをしないと、大人になっても、感情を抑制できず、ささいなことで感情を爆発させることが起きるだろう。種々の心の病気や問題行動を起こすことが多くなる。
 大人になっても、このような科学の成果を応用できる。感情を抑制するのが難しいために種々の心の病気が起きる。感情は扁桃体が起こす。それを、前頭前野が抑制する。そこで、心の病気を治すには、前頭前野を活性化する種々のカウンセリング技法を指導すればよいという方針を思いつく。薬物療法は、残念ながら、セロトニン神経に作用して、前頭前野への作用は、間接的である。我々は、呼吸法や行動活性化療法を併用しているが、セロトニン神経に作用する。今後は、前頭前野に作用する心理療法が研究されていくべきである。マインドフルネス&アクセプタンス心理療法や行動活性化療法などが、種々の心の病気に効果があるのは、前頭前野を活性化するためであることが推測される。

(図)前頭前野の46野が、感情の扁桃体を抑制