前頭前野は感情・攻撃行動を抑制(1)
感情や攻撃行動(キレる、暴力・犯罪)、エゴイズムを抑制できない人が多くて社会問題になっている。これを抑制する機能が前頭前野にある。これについて脳神経科学の研究をみておく。
前頭前野は感情や攻撃行動(キレる、暴力・犯罪)を抑制する機能がある。この抑制が十分でないと、心の病気になったり問題行動(自傷行為、暴力など)を起こしたりする。
前頭前野のうち、背外側前頭前野は情動(感情)を抑制する。
「背外側前頭前野は、抽象的思考など「高次認知活動」に関与し( Miller and Cohen, 2001 )、一般的に情動発現に対して抑制的に働くと考えられている。悲しい状況のビデオや性的な感情を抑制させると背外側前頭前野の活動が上昇する( Beauregarad et al., 2001 ; Levesque et al., 2003 )。この否定的および不快な感情を抑制する能力が慢性的に欠如した人では、うつ病や不安症になりやすい、 あるいは攻撃行動や暴力行為をきたしやすいことが示唆されている。」(1)
眼窩前頭葉皮質も、感情や行動の抑制にかかわっている。
「脳機能画像研究によれば、眼窩面は、モラルなどの高次の情動発現や長期的展望に基づいた意思決定を行い、扁桃体を抑制的に制御し、自己を適切な感情に調節しているようである。。以上の研究結果より、眼窩前頭葉皮質は、社会的行動を制御し、社会的能力を向上させている領域であると考えられている。」(2)
うつ病や不安障害の患者は、このような前頭前野の機能のおとろえがみられている。
「前頭前野は、気分障害の病態生理に重要な役割を演じるとされている。著者らは、寛解した気分障害患者にToM能力の欠損が生じていることを初めて明らかにした。ToM能力の欠損は、心理的相互交流に支障を生じやすくさせ、適応的な生活に破綻を生じることにより、気分障害を引きこしうると考えられる。」(3)
セロトニン神経に作用する薬物療法で軽くなっただけでは、このような前頭前野の感情、行動の抑制機能が十分に回復していない場合が多く、薬物療法だけで、このような前頭前野の機能回復を自然回復(医者から指導されずに、自分で運動や趣味などをしたことにより)にまかせているのでは、完治までに長引く場合があり、なかには、自然には回復しない場合もあることが推測できよう。前頭前野の機能低下ということを理解し、その回復のための心理療法を積極的に行なうことが、うつ病、不安障害、依存症、境界性パーソナリティ障害(4)などの早期治癒に効果があるだろうということも推測されるだろう。
- (1)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005/No.6,Vol.23 「前頭前野をめぐって」。
636頁、「前頭前野と情動発現」小野武年、西条寿夫(富山医科薬科大学)
- (2)同上、645頁。「前頭前野と心理的相互交流」井上由美子、山田和男、神庭重信(山梨大学)
- (3)同上、647頁。
- (4)依存症は何かのストレスによる感情の抑制ができずに、依存物の摂取行為を抑制できない。境界性パーソナリティ障害は、怒りの感情、暴力・自傷行為を抑制できない。