治療回避・まぎらし行為
 =機能の連合(心の病気、非行)
 心の病気や暴力をする人は、自分の感情やつらさを緩和しようとして「まぎらし行為」をする。回避、逃避、依存物の摂取(食べ物、アルコール、薬物)、自傷行為、他者へのいじめ・暴力などである。また、カウンセリングを受けて、治る可能性を説明するのに、2度と現れないクライアントがいる。これは、何が起きているのだろうか。

 心の病気を治すためのカウンセリングを受けて、課題(呼吸法の実行や早起き、運動など)を実行するのは、目的指向的行動である。これは、前頭前野の働きであることは、次の記事で述べた。心理療法の面接を受けて、治したいという強い願いを持つに至る人は治るのである。  要約の部分を再録する。

目的に合う行動を選択して実行

 長い時間をまたいで、報酬を得られるような状況では、作業記憶が働く必要があるが、2つの段階にわけられる。(A)自分の記憶の中から種々の因果関係の選択肢を想起する段階、(B)そして、特定の行為ー報酬の連合を想起する。それによって運動の選択をする。
(注)自己洞察瞑想療法では、課題(呼吸法の実行など)を与える。それは、カウンセリング期間中、治るまで、そのクライアントにとって選択すべき「行動」となる。従って、クライアントにおいて、その報酬を強調する。すぐには、実現しないので、長期間をまたいだ因果関係となる。この課題と報酬(うつ病などが治ること)を強調する。「価値保持・価値確認」の技法である。そのクライアントの願い・実現したい価値(たとえば、就職したい、復帰したい、など)を明確にしてもらう。それを、長期的な価値・願いと位置づける。そういう願いがあるならば、その前に、短期の価値・願いがあると強調する。それは、「治ること、治りたい」ということだ。それを忘れないようにと強調する。そして、「こういう課題を実行すれば、治る、と説明する。報酬期待を明確に理解してもらい、カウンセラーのいないところでも、この「カウンセラーと約束した課題」は報酬(自分の願い=治る)を得ることを忘れないようにしてもらう。
 これが、「自己洞察瞑想療法」の中の、「価値保持・価値確認」の技法であるが、これをカウンセラーが努力しても、放棄してしまうクライアントもいる。そこを補うプログラムを研究・開発すべき余地はある。
 

治療回避・まぎらし行為

 自分の問題を解決できる可能性を、読書やカウンセリングなどで学習して、病気や非行犯罪を改善する行動を選択できればいい。その時には、いくつかの選択肢を想起し、選択し、実行できるスキルが必要である。これは、前頭前野の機能である。
 心の病気や暴力をする人は、自分の感情やつらさを緩和しようとして「まぎらし行為」をする。回避、逃避、依存物の摂取、自傷行為、他者のいじめ・暴力などである。これらは、患者の繰り返される非機能的行動であり、「習慣的行動」である。
また、カウンセリングを受けて、治る可能性を説明するのに、2度と現れないクライアントがいる。これも、治るための行動(初回のカウンセリングで説明したのに)を選択しない、いつもの回避、ひきこもりであり、習慣的行動である。これは、何が起きているのだろうか。


 目標指向的行動の場合は、前頭前野が機能するが、習慣的行動は、扁桃体→前頭眼窩野が働く。「習慣的行動において環境刺激が行為を直接引き起こす」。  うつ病や不安障害などでは、ひきこもり(外出しない、カウンセリングも行かない)によって、やっかいな行動をするよりも、習慣的行動をとる。過食症(リストカット)では、つらい時に、食べる(自傷行為する)ことによって、気がまぎれるという習慣的行動をする。自分がイライラする時に、他者をいじめたり、暴力をふるって、うっぷんをはらすのも、これである。これが、習慣的行為であり、障害や非行、いじめを継続維持している。目標を想起して、他の選択肢をとることをしない。

 心の病気の治療には、前頭眼窩野を中心とした悪しき習慣的行動を中断して、前頭前野の目標指向的な働きを強化させることが重要となる。すなわち、前頭前野の機能の活性化と、種々の良き対処法、選択肢を教えることである。
 面接に、1回しか来ないで、2回目に現れないクライアントは、この習慣が強固であるためであろう。うつ病患者でも、症状が異なる。面接の翌日から、課題を実行しない、次回の面接におとずれないのは、前頭前野の目標指向的機能が特に低下しているクライアントであると考えられる。そういうことを減少させるために、いくつかの工夫が必要である。
 本人の願いを最初から強く確認する。説明の順序を変える。説明資料を渡す。図を多くする。家族と同伴してもらう。8週間プログラムのメニューを呈示する。入院方式で治療する。こういう工夫をすることによって、脱落者を少なくしていく必要がある。