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「パニック障害=その後・人間的な深まり」 (後編)

 ** 自己洞察法によって症状が改善した事例(後編) **

 埼玉メンタル・カウンセリング協会の新しい心理療法(マインドフルネス、アクセプタンスを中心とした「自己洞察瞑想療法」)で、パニック障害が改善した方から、手記が寄せられました。前編として、掲載させていただきました。
(前編)苦しんだ日々、カウンセリング、そして、治るまで

今度は、その2年後のご様子を、メールの内容で、ご紹介します。ご本人の承諾を得ています。プライバシーにかかわることは含みません。
 薬物療法では治らなかったパニック障害で、面接前にあった症状がほとんどなくなってから、2年後にも、「外出恐怖も何もかもなくなり」と、全く発作も広場恐怖もないという。
 しかも、自分と他者、環境というものについての洞察が深まっておられることがわかる。こういうものの見方の深まりは、マインドフルネス心理療法においては、よく報告されている(注3)。すでに、セラピストからは離れているのに、本人が、その後も、呼吸法を中心にしたマインドフルネス、アクセプタンス、機能分析法などを実践していると、セラピストの指摘によらず、自分からおのずと洞察されてくる。
 この方は、治療中においても、症状や環境について、自己について、洞察の深まりがあった。いつか機会があれば、ご紹介したい。
6)その後、再発せず、普通の生活が続く
【(+4)年春】
 Mさんから、当協会の代表あてに、メールをいただいた。2年近く経過した頃だった。全く発作が起きず、完治した状況が続いている。この人は、前編に記載されている時の面接以後は、全く、来訪されていない。ご自分ひとりで、実践を継続して、自己洞察が深まっていった様子がみられる。
(注)5年経過時にも「全く忘れているくらい」とご連絡いただきました。
(注) 大田のコメント


 このように、発作も広場恐怖も全くなくて、普通の生活を送っておられる。ところで、パニック障害になる人は、中脳水道(または青斑核という説もある)に脆弱性、過敏性があって、そこが興奮した時に、発作が誘発されるという仮設が有力である。前頭前野の意識的な抑制が弱いともいう。そのようなクライアントが心理療法で完治した時には、脳神経はどんな変化が起きているのだろうか。
 HPA系の負のフィードバックは改善されたのだろう。縫線核セロトニン神経(無意識の抑制)も強化されただろう。これで、就寝中の発作や、発作のない時の身体症状も消失する。マインドフルネス心理療法のトレーニングによって、前頭前野が活性化して意識的な抑制、広場恐怖への自動思考、予期不安が抑制される。
 しかし、解明されていないことがある。
 中脳水道の脆弱性、過敏性は、そのままであって、セロトニン神経の無意識の抑制と、前頭前野からの意識的な抑制の2つの抑制力が発作の誘発を抑制しているのか。
 それとも、中脳水道(または、青斑核)の脆弱性、過敏性が解消したのか。このいずれであるのかは、確認されていない。
 もし、脆弱性が残ったままであれば、何十年後、加齢による、セロトニン神経や前頭前野のおとろえによって、高齢になってからパニック発作が起きることがあるのか、わかっていない。高齢者のうちには、介護などで、うつ病になる人は多いが、パニック発作を起こさない高齢者は多い。若い頃、パニック障害となって、マインドフルネス心理療法で完治した人が、その後、高齢になっても、再発しないのか、知りたい。心理療法は、中脳水道などの脆弱性を完全に修復するのかどうか。心理療法で完治した人を何十年も追跡調査しないと判明しない。
 この心理療法は、マインドフルネスとアクセプタンスを重視したトレーニングによって、ストレス耐性を向上させることにより、種々の心の問題を解決する心理療法であり、アメリカでは、かなり盛んになっているが、日本では、まだ、これを行なうカウンセラー、セラピスト、精神科医は、ほとんどいない。だが、研究が始まっているから、今後、日本でも、普及していくだろう。アメリカのセラピストは、開発者が、それぞれ、名称をつけている(ストレス緩和プログラム、弁証法的行動療法など)が、私どもの心理療法は、少し異なるところがあるので、独自の名称(自己洞察瞑想療法)をつけた。総称すれば、マインドフルネス心理療法であろう。そして、認知行動療法の一種である。認知的技法をほとんど全く用いないことがマインドフルネス心理療法の特徴であり、どちらかというと「行動療法」寄りである。マインドフルネス心理療法は「第3世代の行動療法」と呼ぶ人がいる。第1世代<行動療法>→第2世代<認知療法>→第3世代<行動療法>(マインドフルネス心理療法)である。認知療法でゆきづまりをみせる難治性のうつ病、非定型うつ病、不安障害、パーソナリティ障害、アルコール依存症などが改善されていく。うつ病、不安障害などが治らずに苦しむ人が多い(それゆえひきこもり、自殺が多い)日本でも、これから当然、普及すべき心理療法である。