(図 T-7-b)
うつ病
HPA系の亢進、コルチゾールの負のフィードバック機能不全
うつ病になった人は、HPA系(視床下部ー脳下垂体ー副腎皮質)の亢進と負のフィードバックの機能不全がみられる。
ストレス・ホルモンの分泌
ストレスがかかると、扁桃体が興奮して感情が起きる。怒り、嫌悪、不安、不満などの感情が起きる。扁桃体が興奮すると、HPA系と自律神経(交感神経)が興奮して、ストレスホルモンが分泌される。一つは、自律神経ー副腎髄質からのノルアドレナリンであり、もう一つは、HPA系ー副腎皮質からのコルチゾールの分泌がある。
止める機能が不全
コルチゾールが分泌されると血液にのって、海馬、視床下部、脳下垂体に達すると、HPAの興奮をしずめる。こうして、負のフィードバック機能があるので、健常者では、いったん、HPA系が興奮しても、まもなく、おさまる。ところが、うつ病の患者では、この負のフィードバック機能が障害されている例が多い。また(それゆえか)、HPA系が亢進している。脳下垂体や副腎が肥大しているという報告がある。
うつ病の患者は、扁桃体(感情を起こす)、および、HPA系の亢進があって、ストレスホルモンの分泌が多い。それをしずめるフィードバック機能が障害されている。だから、うつ病になると、治りにくい原因の一つである。
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うつ病の薬物療法
これまでの、うつ病の治療薬は、HPA系に直接作用するのではなくて、セロトニン神経に作用して、間接的に、HPA系の亢進を改善することをねらっている。セロトニン再取り込み阻害薬であるが、これで効果のない患者もいて、HPA系の亢進をしずめる作用をする薬の研究がすすめられている。
うつ病の心理療法
うつ病の患者は、感情(扁桃体)、HPA系の亢進がみられるので、心理療法としては、これらの興奮をしずめるような効果のある助言を行なう。認知療法は、思考内容の偏りを理解して他の考えかたをすることによって、感情(怒り、嫌悪、不安、不満など)を起こすことを少なくして、症状を改善しようとする。うつ病は、認知療法でも治ることがあることが認められている。
認知療法でも治らない患者、認知療法を受け付けない患者もいるが、そのようなうつ病の患者に対して、アメリカでは、マインドフルネス心理療法が用いられるようになった。うつ病には、かなり高い治療効果があることが報告されている。私たち(埼玉メンタル・カウンセリング協会)も、これを主として、用いる。
ストレスや感情、病気によって定着した症状などにさらされても、無評価で観察して、受容して、そういうことに注意を向けて感情をみだりにおこすことをやめて、注意を価値あることに向けて、治療効果のあることを実行していくように助言する。そういうことができるように、呼吸法や前頭前野を活性化する運動、生活法から入ることをすすめている。朝早く起きる、朝食をとる、呼吸法を行なう、運動をする、日常生活の中で、今の、、目前のことに注意を集中する法、自動思考や回避行動を抑制する法、不快事象を徹底して受容する法などなどをすすめている。こうしたことによって、HPA系の亢進が改善されて、コルチゾールの負のフィードバックの機能不全が改善することで、うつ病が治癒すると思われる。
参考記事
心理ストレスから病気(HPA軸)
=ストレスから感情、自律神経亢進、コルチゾール分泌
うつ病患者は、HPA系の亢進、負のフィードバック機能の不全がある。
ストレスホルモンによって、前頭前野、縫線核セロトニン神経、体内時計、自律神経などが変調を起こして、種々の精神症状、身体症状が起きる。その症状の苦痛を嫌い、否定的感情を起こし続けていると、負のフィードバックの機能不全が回復しない。