うつ病=HPT(甲状腺)系の機能不全
うつ病になった人は、HPA系(視床下部ー脳下垂体ー副腎皮質)の亢進と負のフィード
バックの機能不全がみられる。
→HPA系の亢進、コルチゾールの負のフィードバック機能不全
うつ病患者には、甲状腺系(HPT系)の機能不全もみられる。
甲状腺ホルモンは、HPT系(視床下部ー脳下垂体ー甲状腺)のループを形成している。視
床下部の甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)が門脈系に分泌されると、脳下垂体から
甲状腺刺激ホルモン(TSH)が分泌される。それが全身循環によって甲状腺に達し、甲状腺
ホルモンの分泌をうながす。そして、甲状腺ホルモンは、負のフィードバック機構によっ
て、上位のホルモンの調節を行う。甲状腺ホルモンの量によって、視床下部の刺激は抑制されたり、活発になったりする。健常な場合には、亢進しつづけることがないようになっている。
うつ病の患者には、このHPT系の異常がみられる患者がいる。
「気分障害の一部(およそ20〜30%)に何らかのHPT系の異常がみられるとされる。」(
参考文献の1040頁)
「TRH(200〜500μg)を経静脈的に投与した後のTSHの反応をみるTRH負荷試験では、通
常、原発性甲状腺亢進症でTSHの低反応、機能低下症で過剰反応がみられるが、
うつ病患者のおよそ25%では甲状腺ホルモンやTSHの基礎値が正常範囲内であっても、
TSHの低反応がみられる。このTRH負荷試験への低い反応のメカニズムはいまだに議論のあ
るところであるが、低反応を示すうつ病ではTRHの分泌過剰があり、それによって下垂体
のTRH受容体のダウンレギュレーションが生じている可能性が示唆されている。事実、う
つ病では健常人と比較して脳脊髄液中のTRHレベルが高いと報告され、その後の研究でも
この所見を支持する結果を得たものが多い。」(参考文献の1040頁)
「一方、上記とは対照的に、15%のうつ病患者はTRH負荷試験に対して過剰反応を示した
という報告もある。」(参考文献の1040頁)
このように、うつ病患者の一部には、甲状腺にかかわるHPT系の異常がみられる。
うつ病ではない「甲状腺機能亢進症」と「甲状腺機能低下症」には、次の症状がある。
◆甲状腺機能低下症の症状
元気がなくなる、疲れやすい、脱力感、寒がり、体重増加、食欲低下、便秘、月経過多
、筋力低下、こむら返り、など。
精神症状は 、記憶力低下、集中力低下、動作が緩慢、痴呆ではないが、一見痴呆と間
違われる、など。
◆甲状腺機能亢進症の症状
甲状腺(首のあたり)の腫れ、動悸、心拍数が多い、汗かき、湿った皮膚、たくさん食
べるのにやせる、手の指が震える、疲れ易い、暑がり、イライラして落ち着きがない、軟
便・下痢傾向、不眠症、月経過少、無月経。眼球突出、
手足の一時的な麻痺(周期性四肢麻痺) 、など。
うつ病にも、次のような、種々の精神症状、身体症状があらわれる。
精神症状(T軸)
- (A)強度の気持ちの沈み、ゆううつ感。(青年の場合)いらいら感。
- (B)興味の喪失。喜びの喪失。(好きな事をしない)
- (C) 焦燥(いらいら)または制止(動きがにぶい)。
- (D)疲労感が強い。無気力。
- (E1)無価値感。罪悪感。
- (E2)自尊心がない。(劣等感)
- (F)集中力がない。思考力の減退。決断力が鈍る、決断困難。
- (G1) 死ぬことをくり返し考える。自殺念慮、自殺企図、自殺計画。
- (G2)絶望感。(将来、能力などに自信なく悲観的)
- (H)心気妄想、貧困妄想、関係妄想、被害妄想。
身体症状(V軸)
- (A)食欲低下、または、過食。
- (B)不眠。睡眠過多。(朝早くめがさめる、眠りが浅い)
- (C)身体がだるい、下痢、便秘、胃腸系の障害。性欲の低下
- (D)腹痛、頭痛、胸痛、筋肉痛、四肢痛などの痛み。
- (E)肩こり、しびれ、めまい、動悸、発汗、口のかわき
- (F)胸やけ、息苦しさ、胸の圧迫感、熱感、目のつかれ。
うつ病の症状は多様であり、うつ病の固有の障害部所は何であるのか、わかりにくいが
、うつ病の症状のうちには甲状腺、HPT系機能不全による症状と重なるものが多いことがわかる。うつ
病は、甲状腺、HPT系の異常も深く関係していることが推測できる。
抗うつ薬を投与すると、こういう症状も改善していくが、効果がない患者もいる。
抗うつ薬だけでは効果がない症例に、甲状腺ホルモン補充療法を付加すると、効果のあ
る症例もあるという。(参考文献の1040頁)
(参考文献)「うつ病の神経内分泌研究」功刀浩、(「医学のあゆみ」2006/12/30、うつ
病のすべて)
うつ病の心理療法
うつ病は、HPT系の機能不全のような症状も、薬物療法、心理療法によって、改善する
ことがある。一体、どういう機序で改善するのだろうか。
うつ病は、治療しないと治りにくいが、HPT系ならば、TRH受容体のダウンレギュレーシ
ョンが、セロトニン神経ならば、自己受容体の増加が、前頭前野ならば何かの(いくつか
の説がある)機能不全が、起きていて、何も治療しないと、その変調が回復しないためだ
ろう。薬物療法や心理療法を加えると、治るということは、それによって、障害されてい
た機能が修復されることになる。
甲状腺関連では、HPT系の視床下部には、セロトニン神経が軸策を伸ばしており、療法
によってセロトニン神経の活性化がもたらされて、視床下部に影響して、HPT系の変調を
回復させるのだろうか。
参考記事