うつ病は海馬が縮小

 =脳由来神経栄養因子(BDNF)

 うつ病になると、頭が素早く回転しなくなって、勉強、仕事、会話などが順調に遂行できなくなる。記憶障害が起きる、意欲もない、注意集中できない、喜びを感じない、など 前頭前野の機能が損なわれているが、記憶に関与する海馬の機能低下がある。 新しく記憶したり、昔記憶していたはずの記憶を想起することがむつかしい。
 うつ病の患者の海馬の容積が小さくなっているという研究報告がある。心理的な要因によるうつ病は、怒り、不満、嫌悪、悲哀、などのつらい感情が持続することによって起きる。つらい感情が起きる時、扁桃体が亢進して、HPA系が興奮して、副腎から、ストレスホルモン(糖質コルチコイド、コルチゾール)が分泌されるが、それが長期間、持続すると、抑制機能が不全となり、ホルモンが分泌され続けて、海馬をそこなう。うつ病の患者は、海馬が小さくなっている。  海馬が小さくなるのは、脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現が少なくなっているためであるようである。
 「神経栄養因子は神経の分化やシナプス伝達の調整、シナプス可塑性の調整にかかわっている。」(2)
 うつ病の患者は、BDNF(脳由来神経栄養因子)が海馬で少なくなっている。抗うつ薬で、それが増える。心理療法で治してもそうである。  現在、処方される抗うつ薬でも、BDNFを増加させることによって、うつ病が治るように作用するようである。海馬の細胞が増えたり、樹状突起がのびたりして、海馬の機能が活性化すると、HPA系のフィードバック機能も回復するだろう。うつ病は、前頭前野の機能も大きく関係している。海馬の機能回復、前頭前野の機能回復などによって、うつ病が治っていく。
 薬物療法で、効果がない患者には、他の療法によって、こうした機能不全の部分を回復させることがその方略となる。アメリカでは、うつ病の行動活性化療法が効果があったと報告されているが、運動は、BDNFを増加させるという研究報告(4)も多い。
 運動によって、海馬のBDNFの増加による海馬の神経細胞の回復が効果を発揮するのだろう。さらに、運動は、前頭前野も活性化させる。うつ病患者の前頭前野も容積縮小、機能不全が推測されているので、抗うつ薬で効果がないうつ病患者の一部が、運動で治る。
 運動は、激しい運動ではなくて、早めの歩行、水泳、ジョギング、「フリフリグッパー体操」などの、リズム運動でよい。

(注)