薬物療法の限界


 「医者は自殺を防止できない」という過激なタイトルで、日本の自殺問題深刻さを考えてみたい。

 地方の場合、自殺防止運動には、精神科医が重要な役割をになっている。だが、医者は、薬物療法を中心とした治療を行うので、それでは、自殺防止の恒久策とはならないということがわかってきた。
 薬物療法は、完治する療法ではなくて、対症療法にすぎない。そのことがわかってきた。  浜松医科大学名誉教授の高田明和氏のほか、次の報告がある。

薬物療法で治るのは約7割、研究熱心な医師で9割というがその後、また再発

 うつ病の治療の中心は抗うつ薬である。種々の抗うつ薬が発売されて使用されているが、現実には、簡単には治らない人がいる。
 薬物療法だけで完全に治癒するのは、だいたい70%というのがおおかたの治癒率である。  薬物療法を受けても、完治しているのは、25〜40%という研究結果がある。これでは、自殺は減少しない。薬物療法の医師主導の、自殺防止対策では、不十分である。

 上記は厳しい見方だが、うつ病の治療に詳しい医師が薬物を量を変えたり、多くの薬物を変えたりして、薬物治療を行えば、70%くらいに効果があると野村氏は言う。  野村氏の場合、一つの薬で効果がみられない場合、量を増加したり、三還系、SSRI,SNRIなど多くの薬物の種類を変えるとか、併用投与するなどの工夫をするという(4)。だが、こうした、うつ病の薬物療法に詳しい医師は数が限られるだろう。
 薬物療法さえも受けない患者が多いそうだが、薬物療法を受けるとしても、うつ病の薬物療法に詳しい医師にかかっても、1割ないし3割は治らない患者がいる。一度治ったつもりでも、再発が多い。これでは、自殺が減少しない。
 うつ病の薬物療法では、根本的治療とはならないということがわかってきた。だから、保健所などで、「重症者は、精神科医にまわす」という現在の方針は再考が必要であると思う。その根拠を、さらにいくつか、示したい。
 医者は忙しすぎて、完治が期待される心理療法をしない。知らない。医者以外のスタッフが、うつ病、自殺防止にとりくむべきである。
うつ病を完治させて、自殺を減少させるには、うつ病の心理療法ができるカウンセラーを増やさなければならない。うつ病、自殺問題だけのカウンセラーならば、特別な資質のある人が長い研修期間を必要とするものでもない。各種の施設、NPOなどのスタッフも、この問題の解決に貢献できる。