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非定型うつ病をマインドフルネス心理療法で治す
非定型うつ病の<鉛様麻痺感>はなぜ起きるのか
=治せる病理であると理解して回復するような対策を実行すべき
非定型うつ病の人は、次の症状が軽くならないと社会的生活(仕事、主婦業など)に支障が大きい。
対人関係で激しく反応することによって
- (1)激しく感情的になる(怒る、嘆く、落ち込む)。そして体調不良。
- (2)強い睡眠へのスイッチがはいる
- (3)鉛様麻痺感へのスイッチがはいる
鉛様麻痺感
非定型うつ病の特徴である鉛様麻痺感が起きると、起き上がれなくて仕事に行けない。せっかく就職できても、欠勤が多くなって退職に追い込まれる。この症状はそれがあるがままに受け入れて生きていけばいいというのは残酷である。鉛様麻痺感があり、さらに抑うつ症状があれば、その苦しみはあまりに大きい。身体の障害の人は、精神症状がなくて仕事を持って力強く生きていく人が多いが、非定型うつ病の鉛様麻痺感、抑うつ症状があれば、仕事をする精神を病んでいるので仕事ができない。患者の苦悩を思えば、軽くしようと思わずずっと受け入れよというのではなく、その症状を軽くすることを方針としたい。すなわち、治らない<障害>としてずっと受け入れて生きていけばいい、というのではなく、病気であって治る可能性があるという立場に立つ。実際、薬物療法や認知行動療法、マインドフルネス心理療法で治る人がいるのだから、治ったケースを分析して、治す技法を開発していけばいい。
鉛様麻痺感の脳の中の責任部位が明らかになっていないが、鉛様麻痺感はいわゆる<疲労感>の一変形とも考えられるので、他の病気にある<疲労感>の研究成果を参考にできる。
慢性疲労症候群の強い眠気についてみたが、疲労感もある。慢性疲労症候群の疲労感は研究がすすんでいる。
慢性疲労症候群
慢性疲労症候群(CFS)はその名のとおり疲労感が持続する慢性の疾患である。
生活が著しく損なわれるような強い疲労を主症状とし、少なくとも6ヵ月以上の期間持続ないし再発を繰り返す。以下の症状のいくつかも長期間持続または繰り返し生ずる。
1.徴熱(腋窩温37.2〜38.3℃)ないし悪寒
2.咽頭痛
3.頚部あるいは腋窩リンパ節の腫張
4.原因不明の筋力低下
5.筋肉痛ないし不快感
6.軽い労作後に24時間以上続く全身倦怠感
7.頭痛
8.腫脹や発赤を伴わない移動性関節痛
9.精神神経症状(光過敏、一過性暗点、物忘れ、易刺激性、混乱、思考力低下、集中力低下、抑うつ など)
10.睡眠障害(過眠、不眠)
11.発症時、主たる症状が数時間から数日の間に出現
12.微熱
13.非浸出性咽頭炎
14.リンパ節の腫大(頚部、腋窩リンパ節)
慢性疲労症候群は、もともと慢性感染症や体内にヘルペスウイルスをもっていた人が、ストレスなどで免疫力が低下した際に再活性化して、慢性疲労症候群(CFS)の発症に関わっていると考えられている。
慢性疲労症候群はウイルスの関与が疑われているので、心理的ストレスによる非定型うつ病の鉛様麻痺感とは違うかもしれないが、慢性疲労症候群も心理的ストレスによって悪化するので近似するかもしれない。ただ、非定型うつ病の鉛様麻痺感は快い出来事で回復することがあり、違いも大きい。
非定型うつ病の鉛様麻痺感と慢性疲労症候群の疲労感とはかなり違うようであるが、
慢性疲労症候群の疲労感についての研究をみておく。
慢性疲労症候群の疲労感
前頭葉の萎縮
「磁気共鳴画像法(MRI)を用いた容積測定の研究から、CFS患者の両側背側前頭前野の体積が健常人と比べて小さくなっていることが判明した。また、その一部(右背側前頭前野)において、体積の減少の程度と疾患重症度との間に有意な相関が認められた。」(1)
疲労感関連脳部位=眼窩前頭野
「身体的疲労、精神的疲労、ストレス由来の疲労、感染性疲労に共通して働くメカニズムがあり、まったくすべてが同じメカニズムということではないにせよ、どこかで、疲労を感じる神経回路のようなものがあると考えられる。
関西福祉科学大学の田島らは精神的疲労を対象として、健常被験者に大阪市立大学の梶本らが開発したAdvanced Trail Making Test (ATMT) を長時間行わせて、局所脳血流量の変化を PET を用いて検討した。彼らは、疲労感に伴い活性が上昇する部位は眼窩前頭野( Brodmann 10,11野 )の一部であることをつきとめた。この脳部位は疲労を感知する神経回路において中心的な役割を有すると考えられている。」(2)
海馬の縮小
海馬は記憶や感情に関係しています。非定型うつ病の人の海馬が萎縮しているようです。「幼少児期に激しいストレスを受けたうつ病の人は、幼少児期に激しいストレスを受けなかったうつ病の人やうつ病を持たない健常者に比べ、海馬が小さくなっていることが報告されています。」(3)
海馬では成人後でも細胞の新生が起きることが報告されている。非定型うつ病が治ることには海馬の細胞の新生が必要であるのかもしれない。それが感情過敏性を改善するのかもしれないが、詳細は不明である。
非定型うつ病の治し方
慢性疲労症候群では、疲労感を感じる部位は眼窩前頭前野のようである。非定型うつ病の鉛様麻痺感もそうであるかもしれない。あるいは、別の部位かもしれない。
いずれにしても、非定型うつ病の場合の鉛様麻痺感を起こす部位があって、感情が激した時にスイッチが入る。そして、好ましい出来事が起きたり、呼吸法をすると徐々に、その亢進がしずまる。その生理学的な機所序もあきらかにはなっていない。
生理学的な仕組みはあきらかになっていなくても、心理的な介入は可能である。
非定型うつ病には、次の連鎖がある。鉛様麻痺感の部位(*)は、眼窩前頭前野かもしれないし、そうでないかもしれないが、次の連鎖がある。
◆
対人関係→激しい感情→鉛様麻痺感の神経回路(*)にスイッチが入る→鉛様麻痺感のために
起き上がれない→仕事ができない→社会生活が支障→慢性的に悩む→過敏性が持続→対
人関係に過敏
非定型うつ病は、この連鎖が起きることが少なくなると社会生活は障害されない。
非定型うつ病は、認知行動療法で治癒することもあるが、
その場合、疲労感の責任部位(眼窩前頭前野)の脆弱性が回復しているわけである。
激しい対人関係で鉛様麻痺感にスイッチが入り、好ましい出来事や呼吸法で回復するので、
非定型うつ病の場合は、責任部位の亢進は比較的短期間である。2,3日とか、1,2週間である。鉛様麻痺感がとれるのは好ましい出来事であるが、
呼吸法を長時間行っても回復する人がいる。鉛様麻痺感の亢進をしずめるのは、副交感神経か、ドーパミン神経の作用であるのか、それとも他の機構によるのかよくわからない。ただ、こうした呼吸法の事後的利用法は根本的な解決にならない。上流の反応パターンを変えて感情的になる頻度を少なくし、持続時間を短くして、鉛様麻痺感(強い眠気も)のスイッチが入る頻度を少なくすることが改善方針となる。
責任部位がどこであるにしても、激しい感情が鉛様麻痺感を引き起こすのであれば、その上流の思考(否定的、不満的な)をコントロールすることが鉛様麻痺感の出現を減少させるだろう。対人関係において発作的な感情の亢進の後に繰り返される反復思考、あるいは、独りでいる時に起きる否定的・嫌悪的思考を繰り返さないようになることが治療の方針となるだろう。ストレスのある状況、対人関係が起きた時、激しい感情を起こさないようになるのは、相当長期間かかるだろうが、まず、後継の反復思考をコントロールする方法を
習得して、実行することがよいことになる。
否定的嫌悪的思考が長期間繰り返されると、鉛様麻痺感にスイッチが入る。
強い感情を起こす思考の持続時間が短くなると、鉛様麻痺感の発作の回数が少なくなり、回数が少ない期間が続くと、鉛様麻痺感の責任部位の脆弱性は解消するだろう。
脳神経回路は使用頻度が高いと過敏になり、使用頻度が少ないとすたれていく。
非定型うつ病の人が治癒する場合には、そういうことが生じていると推測される。
自己洞察瞑想療法(SIMT)においては、種々の刺激に反応する思考全般をコントロールする課題を実行する。従来の認知行動療法で一部用いられてきた特定思考の「思考停止法」とは異なり、呼吸法や瞑想法を用いて思考全般のコントロール法を習得する。思考の内容は絶対の事実ではなく、自己の評価解釈であり移り行く現象にすぎないことを自覚して、重視しない態度をとるようにトレーニングする。思考内容は過去や未来にかかわることが多いが、現実には「現在」しか実在しないという信念を持ち、現在に真剣に行動するトレーニングも過去未来にこだわる
否定的思考、不安的思考を減少させる。そうなると、日常的に陰性の感情を動かす時間が短くなる。
また、対人関係において自己が傷つくように感じることは、自己評価が低いためでもあるので、傷つくと思うものは自己存在そのものではないことを種々の直接経験としての私的事象を観察することを通して自覚する。自己概念の新しい観方を試みる。
そうして、他者の言葉、評価にいたずらに激しく反応することが少なくなることでも、症状を悪化させる頻度が少なくなる。
具体的な課題はたとえば次のようなことである。詳細は次の記事に。
- きっかけ、思考、激しい感情、症状の悪化を理解する
- 毎日、呼吸法、運動を行い、感情の過敏さを抑制する神経基盤の基礎を作る。
- 呼吸法、行動時に直接経験注意集中につとめて、思考をコントロールするスキルを向上させる。
- 常時、自己洞察を入れて、否定的思考をしていないことを点検する
- 夜、自己洞察法を行い、感情的なことを思考していないこと、価値実現のことに意識を向けていることを確認する
- 不快事象(他人の言葉を含む)を無評価で観察し受容するトレーニングを行う
- 自己存在と思考内容や感情は別物であることをくり返し観察する
(注)
- (1)「ヒト脳疲労」田中雅彰(大阪市立大学)
(「最新・疲労の科学」医葉薬出版(医学のあゆみ、2009/2/7)621頁。)
- (2)同上、624頁。
- (3)「気まぐれ「うつ」病」貝谷久宣、ちくま新書、132頁