心理ストレスから病気(HPA軸)
他の記事にしばしば関係するので、ストレスで悩むことや身体、心の病気になるとは生理学ではどういうことなのか確認しておきます。
心の病気になる仕組み、心の病気に身体症状がある理由を生理学的な側面を理解しておくと、治療や予防に役にたつ。
ストレス反応
動物が危機におかれた時、それに対処する戦術に2つの選択肢がある。
交感神経優位の防御反応(攻撃または逃走をとるか)と副交感神経優位の行動制御をとるかである。個体や種のちがい、状況的脈絡により生存率を高めるほうが選択されている。人が種々の行動をとるのも、自分にとって、最もよいと判断した行動を選択している。だが、それが、根本的な問題解決になるわけではない。
- (A)防御反応
=
ストレッサーと闘う姿勢をみせる反応。
交感神経優位である。威嚇ー怒り・闘争、または逃走の行動にそった反応である。この時、情動性自律反応(心拍増加、血圧上昇、骨格筋血流の増大、消化器運動および血流の減少、瞳孔散大、呼吸促進、血糖上昇など)が出現する。視床下部、脳下垂体、青斑核が亢進する。
- (B)受動的ストレス反応(行動抑制反応)=
襲撃者にみつからないように、じっと動かず危険が去るのを待つ。すくみ行動、フリージング。副交感神経優位であるが、ストレスを感じているので、身体内部では、ストレス反応が起きている。ACTH(脳下垂体)-副腎皮質系の亢進などが起きる。
ストレス内分泌反応(HPA軸)
ストレスを受けると、主に2つの反応が起きる。視床下部→脳下垂体→副腎の反応の系列を「HPA軸、HPA系」という。
- (a)視床下部(CRH)→脳下垂体(ACTH)→副腎皮質ホルモン(コルチゾール)→免疫抑制
ストレスが加わると、その刺激は大脳辺縁系から視床下部に及び、視床下部からCRH(コルチコロトピン放出ホルモン)が分泌され、それが脳下垂体からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を分泌させる。すると、副腎皮質から、コルチゾールが分泌される。
短期的には、ストレスに対処する反応であるが、繰り返されると、免疫力を低下させ、種々の病気への抵抗力が落ちる。コルチゾールは、血糖値を上昇させ、細胞面疫や液性面疫を抑制する。
ナチュラルキラー(NK)細胞の活動を抑制するので、がんを悪化させたり、起こしたりする。
- (b)交感神経の興奮→種々の臓器に作用、副腎髄質からカテコールアミン
カテコールアミンは、血管収縮、心拍数増加、血圧上昇、血小板の凝集能増加、胃の粘膜血流の低下、肝臓からブドウ糖を血中に放出などの反応を起こす。繰り返される種々の病気を起こす。
ストレスと自律神経(交感神経、副交感神経)
- 多くの内臓が自律神経の支配を受けている。心臓や血管や胃の筋肉を支配し、それらに収縮や弛緩をひきおこす。また自律神経は内分泌腺をも支配して、ホルモンの分泌をひきおこす。
- 交感神経は標的器官に作用して「攻撃や逃避」に必要な作用を助ける。
心拍が増加、血圧の上昇、呼吸の促進、ブドウ糖の供給などを起こす。
- 副交感神経は、「安静と回復」の条件を整える。
消化管への血流、消化酵素の分泌、心拍の低下、気道の縮小などである。
心理的ストレスから、交感神経が興奮することが繰り返されると、上記の種々の臓器の興奮、ホルモンの分泌が過剰になり、免疫を抑制し、身体の各種の部分の障害が起きる。
心の病気の場合、交感神経が興奮することが多いので、身体症状が伴うことが多い。
ストレスを受け続けると、免疫を抑制するので、がんになりやすい。がんになった人が、心理的に絶望すると、それが心理的ストレスとなり、免疫を抑制して、がんが進行して、早く重態になる。がんとなった時、心理的なケアが重要なのはこのためである。呼吸法をとりいれたマインドフルネス心理療法の心得は、このような場合にも効果を発揮するだろう。
痛み・抑うつ
痛みは、種々の病気に伴うが、ストレス、がん、セロトニン神経、抑うつとも関係が深い。
がん患者に痛みがあれば、抑うつになることがある。長い間、頭痛で悩まされて、痛みどめの薬物療法を受けても治らない、はきけまでともなう「片頭痛」があるが、片頭痛は、腹式呼吸法や、抗うつ薬で治ることがある。セロトニン神経が弱って痛みやはきけを抑制しなくなったためである。
うつ病に頭痛、胸通などの痛みの症状を伴うことがある。痛み、交感神経、セロトニン神経、抑うつに、次のような関係が明らかになっている。
- 痛みがあると、交感神経が興奮
深部組織や内臓器官に病変があると、病変部位の近隣の脊髄分節が支配する屈筋が持続的に収縮する。このとき同時に交感神経の活動が高まって、情動性自律反応が起きる。
この反応は意志と無関係に起こる反射活動である。
痛みがあると、交感神経が興奮して、副腎髄質ホルモンが分泌されて、免疫能が低下する。
- 慢性の痛みがあると、睡眠障害、抑うつ
痛みが慢性化すると、睡眠障害、痛みに対する耐性の低下、精神的抑うつ状態などが起きる。
セロトニンが減ったためと説明されている。がん患者でも痛みがコントロールされないと、抑うつ症状が起きる。
- 二つの痛みの伝導路がある
末梢からの痛みの伝導路には2つある。
鋭い痛みを早く伝える回路と、広範な重い慢性的な痛みを伝える回路である。
- セロトニン神経が痛み抑制
縫線核に細胞体を持つニューロン(セロトニンが神経伝達物質)が脊髄後角でシナプス接続して、痛みを抑制する。片頭痛の患者に、セロトニン神経に作用する抗うつ薬を投与すると、軽快する。
うつ病の患者に頭痛、胸通などの痛みの症状がある場合があるが、うつ病の軽快によって消失することも知られている。うつ病の人に呼吸法や瞑想(心の観察)をしてもらうと、やがて、頭痛なども軽快する。
心理療法では、痛みの治療をしなくても、うつのカウンセリングをして、うつが治れば、頭痛、胸痛も消失することがある。薬で治らなかった片頭痛が呼吸法で治ることがある。セロトニン神経を活性化するためである。