縫線核が弱る
「薬物療法で、うつ病が治る」というが、実はそれは「完治」とは言えない。みかけ上であり、脆弱性を残している。薬物療法だけで治った人は、ひとまわり、小さくなった感じである。だが、心理療法で治った人は違う。
薬物療法は、うつ病の場合、対症療法だ。薬物療法でうつが軽くなっても、「セロトニン神経の活性度は低いまま」と、有田秀穂氏(東邦大学教授)が言っている。これはどういうことか。
うつ病の人はセロトニン神経が弱っている。自殺した人の脳内でも、セロトニン神経が弱っていることがわかっている。セロトニン神経が弱ると、うつ病になったり、パニック障害になったり、吐き気、頭痛などが起きる。
ストレスを受けと、HPA軸が反応する。 →
ストレス反応(HPA軸)
「この軸が働いて視床下部から「コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)が放出されると、それは下垂体ばかりでなく、脳幹の縫線核に働きかけて、縫線核の神経活動を盛んにする。」
(これは、最近わかったことだ)
「縫線核はセロトニンを放出する神経細胞の出発点である。そうするとストレッサーはセロトニンを増やすのだろうか?
そう簡単には行かないのが神経系の微妙なところだ。縫線核の神経細胞にはセロトニンの受容体があって、自分が作って放出したセロトニンを受け止めている。こういう受容体を「自己受容体」と呼ぶ。その役割は神経伝達物質の生産高をチェックして増え過ぎや足らな過ぎを防ぐことにある。通常よりもたくさんのセロトニンを検出した自己受容体としては、縫線核の活動を抑制して過剰生産をやめようとする。こうなると、ストレッサーが去った後の縫線核の働きは鈍っており、かえって脳の中でのセロトニンの活動レベルは低下する。」(『心の潜在力・プラシーボ効果』(朝日新聞社 朝日選書 広瀬弘忠著、192頁)
うつ病やパニック障害になった人に、抗うつ薬を処方されるが、治った、軽くなったといっても、見かけ上である。抗うつ薬は、神経細胞の末端のシナプスの部分で、再取り込み阻害をするだけである。セロトニンは、細胞体で合成されて、末端のシナプスに運ばれて、そこで働く。
(A)細胞体(セロトニン合成)======(軸索)==========>(シナプス)(B)
抗うつ薬は、(B)の末端で作用する。しかし、(A)の合成する働きは低いままだ。これが、薬物療法だけでは、完治しないという理由である。
完治させるには、(A)の細胞体の合成の部分を回復させる必要がある。現在、そのような薬物は開発されていない。
だが、その(A)の部分を活性化する手段がある。ゆっくり呼吸、腹式呼吸は、血中の2酸化炭素を検知して、縫線核の細胞体を活性化する作用があることがわかっている。また、散歩、ジョギング、腹式呼吸法などのリズム運動もここを活性化する。また、日光も活性化する。さらに、心理療法も、ここを活性化する。
薬物療法は、末端のシナプスでの再取り込み阻害の作用だから、うつ病を完治させないので、再発しやすい。しかし、呼吸法、認知行動療法、日光などは、縫線核や前頭前野などの中枢の細胞体を活性化させる。
呼吸法をとりいれた、心理療法は、うつ病、パニック障害などを完治に導くわけが理解できるだろう。現在のところ、うつ病、自殺念慮には、最も効果がよく説明できて、実効ある心理療法であろう。生理学で説明できるという事は、大変重要なのである。薬物療法などでも他の心理療法のカウンセリングでも治らず、絶望していた患者に、「希望」「期待」を呼び起こし、治す行動をしてくれるからである。実際、実践すれば、前頭前野や縫線核が活性化する。軽くなり、治る。このことは、自殺しかけている人には、重大な転機をもたらす。自殺念慮があるのは、絶望しているからである。だが、治るわけを生理学で説明できる。それを理解できる患者は、「希望、期待」を持つ。絶望だから、自殺であるが、治りそうだという「希望」が起きた。この希望は、ドーパミンが関与する「意欲・行動」の神経や前頭前野を活性化するようである。
希望があれば、自殺はしない。だが、薬物療法で長く治らず、医者から、「変だな? 治るはずだがな」などという態度をみせられた患者は、不信感をいだき、絶望する。自殺は目前である。うつ病に効果のある心理療法が広く行われるように、そして、うつ病を治すのに効果ある心理療法(それを早く治験すべきだ)については、保険の対象となるような法律ができないだろうか。あるいは、構造改革特区で、ある地区で、実験できないだろうか。私の夢である。
特区の事業にするためには、自治体が申請する必要がある。自殺防止に熱心ではない自治体では、だめだが、自殺防止に真剣にとりくんでいく自治体で、やってみてほしい。