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変化への動機付けを強化するための戦略

CBASP=アメリカの新しい心理療法
(慢性うつ病の新療法:CBASP)
第5章 変化への動機付けを強化するための戦略
 アメリカで開発された慢性うつ病の心理療法の概略をみていく。
 第5章のうち、「動機付けの重要性」「随伴性思考」「関連性の理解」「解放の瞬間」 「形式操作的思考」「前操作的思考」という概念について述べる。

動機付けの重要性

 慢性うつ病患者は、すぐ治療を投げ出す傾向がある。動機づけが重要となる。  因果関係を理解する思考法を「随伴性思考」という。それは「関連性の理解」である。慢性うつ病患者は、それが十分でない。

随伴性思考

関連性の理解、形式操作的思考、前操作的思考

 慢性うつ病患者には「こうすれば、ああなる」ということを理解してもらうことが必要となる。「こうすれば、ああなる」という考え方で論理的にかつ因果論的に考えることを「形式操作的思考」という。これができないのを「前操作的思考」といい、慢性うつ病患者は、そうである。

論理的説得より不快感の軽減

 論理的に説得することよりも、不快感を軽減させることが、治療の方略となる。 「解放の瞬間」
 治療者の助言を受けていくうちに、不快感が軽減される瞬間、負の強化がある。それを「解放の瞬間」という。その時に、どのような行動によって苦痛が軽減したかを理解すれば、新しい適応的な行動ができるようになる。  時には、治療者と患者との間のセッション中に起きる不快感を利用することもある。

 行動によって、不快感の軽減を体験するということを繰り返していると、慢性うつ病が治癒していくという。行動と結果(不快感の軽減)の関係を理解して、それを身につけるには、繰り返しの体験が必要である。それは、目的志向的行動ができるようになるということであり、前頭前野を活性化することによるのではないか。  うつ病患者は、前頭前野の機能が衰えている。ここを活性化するには、理屈、論理の一度だけの「理解」だけでは、活性化しない。繰り返し、賦活する、訓練、練習が必要である。
 うつ病は、こういう特徴を持っているので、慢性うつ病患者には、薬物療法だけでは効果がうすい。急性の大うつ病の場合にも、発症のきっかけとなったストレスが持続しているか、否定的な思考の悪循環が繰り返されていれば、薬物療法があっても、治らないだろう。一時、ストレスの現場から離れて薬物療法を受けて、軽くなったつもりでも、また、ストレスの現場に戻れば、再発することが多いであろう。
 「関連性の理解」や「解放の瞬間に先行した行動に患者が注目する」とあるが、自己洞察瞑想療法では、「機能分析」(基本的、動的)である。原因、結果を観察する訓練をしてもらう。
 「論理的説得より不快感の軽減」の方略があって、CBASPは、必ずしも、認知的手法にはこだわらない。認知によらず、「行動」によって、不快感が軽減するかもしれない。その訓練、練習の積み重ねが、患者には効果が大きい場合がある。