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治療法の現状と課題
変化への動機付けを強化するための戦略
CBASP=アメリカの新しい心理療法
(慢性うつ病の新療法:CBASP)
第5章 変化への動機付けを強化するための戦略
アメリカで開発された慢性うつ病の心理療法の概略をみていく。
第5章のうち、「動機付けの重要性」「随伴性思考」「関連性の理解」「解放の瞬間」
「形式操作的思考」「前操作的思考」という概念について述べる。
動機付けの重要性
「慢性うつ病患者が行動を変容するよう動機付けることは、精神療法家が直面する課題の中でも最も困難なものの一つである。」(69頁)
慢性うつ病患者は、すぐ治療を投げ出す傾向がある。動機づけが重要となる。
「治療に対する動機付けの不足を改善しようと思うならば、慢性うつ病患者の物の見方に何か付け加えなくてはならない。何を付け加えるかと言えば、行動が結果をもたらすという事実に気づかせることである。行動と結果とを関連づけることができれば、2つのことが起こる。行動に変化が起こることと、治療への動機付けが増すことである。」(69頁)
因果関係を理解する思考法を「随伴性思考」という。それは「関連性の理解」である。慢性うつ病患者は、それが十分でない。
随伴性思考
「結果が行動に影響を及ぼすようになる前には、行動と結果の関連づけをしなければならない。随伴性思考法、すなわち「こうすれば、ああなる」という考え方は、治療開始時の慢性うつ病患者にはできない。」(49頁)
関連性の理解、形式操作的思考、前操作的思考
慢性うつ病患者には「こうすれば、ああなる」ということを理解してもらうことが必要となる。「こうすれば、ああなる」という考え方で論理的にかつ因果論的に考えることを「形式操作的思考」という。これができないのを「前操作的思考」といい、慢性うつ病患者は、そうである。
「結果を行動変容の目的で利用する前提として、自分自身と外部環境との関係を関連性を理解するための思考様式によって考察しなければならない。」(71頁)
「関連性の理解は、CBASPでは単なる行動と結果の随伴的な関係の理解を意味する。慢性うつ病患者はこの随伴的な関係を十分に認識することなく生活している。」(51頁)
論理的説得より不快感の軽減
論理的に説得することよりも、不快感を軽減させることが、治療の方略となる。
「患者に何をしなければならないかを論理的に話す方法は効果がない。では他に、前操作的思考行動を変化させる方法があるのだろうか。次のセクションではそれを可能にする方法の1つを提示する。」(72頁)
「もし、治療者が細心の注意を払って、どういった行動が自分の不快感を軽減するのかということを患者が認識するのを援助すれば、慢性的な苦悩を軽減させるすべての行動を強化することができる。」(73頁)
「解放の瞬間」
治療者の助言を受けていくうちに、不快感が軽減される瞬間、負の強化がある。それを「解放の瞬間」という。その時に、どのような行動によって苦痛が軽減したかを理解すれば、新しい適応的な行動ができるようになる。
「私は治療中に生じる上述のような状況を「解放の瞬間( relief moments )と呼ぶことにしている。患者の内的あるいは外的行動によって不快感の軽減が見られた場面のことである。こうした潜在的な負の強化を生じる出来事は、患者が健康的な行動をとったことを示す。もし患者が安心感を導く随伴性を同定できないならば、治療者はいったん立ち止まって、苦悩を中断させたものを検討しなければならない。治療者が、解放の瞬間に先行した行動に患者が注目するのを援助することが出発点である。」(74頁)
「感情的な苦痛の軽減に先行した行動に着目することは、新しい適応的行動を強化する。」(75頁)
「CBASPでは、患者はより適応的な行動をとるよう促される。ある行動によって苦悩が軽減されないのなら、外部環境からの反応が正の強化の役割を果たしているかどうかは結局どっちでもいいことになる。これこそがずっと患者の問題点だったのだ! すなわち、患者のしたことは抑うつを覆すことができなかったのだ。抑うつの悪循環を破らないかぎり、いかなる正の強化を用いても効果は現れないであろう。」
(76頁)
時には、治療者と患者との間のセッション中に起きる不快感を利用することもある。
「この戦略は治療期間中に何回も試みるべきであり、治療者は解放の瞬間が生じたら見逃さないよう注意深くあらねばならない。」(75頁)
「慢性うつ病の精神療法〜CBASPの理論と技法」
原著者:ジェームズP・マカロウ、
監訳者:古川壽亮(名古屋市立大学)、大野裕、岡本泰昌、鈴木伸一
発行:医学書院、2005/11/1、定価:5775円
CBASP=Congnitive-Behavioral Analysis System of Psychotherapy; 認知行動分析システム精神療法
(慢性うつ病のみに開発された精神療法である)
行動によって、不快感の軽減を体験するということを繰り返していると、慢性うつ病が治癒していくという。行動と結果(不快感の軽減)の関係を理解して、それを身につけるには、繰り返しの体験が必要である。それは、目的志向的行動ができるようになるということであり、前頭前野を活性化することによるのではないか。
うつ病患者は、前頭前野の機能が衰えている。ここを活性化するには、理屈、論理の一度だけの「理解」だけでは、活性化しない。繰り返し、賦活する、訓練、練習が必要である。
うつ病は、こういう特徴を持っているので、慢性うつ病患者には、薬物療法だけでは効果がうすい。急性の大うつ病の場合にも、発症のきっかけとなったストレスが持続しているか、否定的な思考の悪循環が繰り返されていれば、薬物療法があっても、治らないだろう。一時、ストレスの現場から離れて薬物療法を受けて、軽くなったつもりでも、また、ストレスの現場に戻れば、再発することが多いであろう。
「関連性の理解」や「解放の瞬間に先行した行動に患者が注目する」とあるが、自己洞察瞑想療法では、「機能分析」(基本的、動的)である。原因、結果を観察する訓練をしてもらう。
「論理的説得より不快感の軽減」の方略があって、CBASPは、必ずしも、認知的手法にはこだわらない。認知によらず、「行動」によって、不快感が軽減するかもしれない。その訓練、練習の積み重ねが、患者には効果が大きい場合がある。