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治療法の現状と課題
「重要他者リスト」と「転移仮説の構築」
CBASP=アメリカの新しい心理療法
(慢性うつ病の新療法:CBASP)
第5章 変化への動機付けを強化するための戦略
アメリカで開発された慢性うつ病の心理療法の概略をみていく。
第5章のうち、「重要他者リストの作成」と「対人関係転移仮説の構築」の概要について述べる。
重要他者リストの作成
第2回セッションでは、重要他者に関する情報を明確にする。
重要他者リスト
「重要他者とは、患者の人生において決定的に強い影響力を持った人物である。」(88頁)
「患者に重要他者の行動とそれが自分に及ぼした効果の間の因果関係を明らかにするよう求める」(89頁)
「患者の中には、自分の対人関係履歴を関連付けることで焦点が当たることになった自分の行動パターンに率直に驚く者もいる。例えば、1人または複数の重要他者からの虐待を思い出し、虐待した人たちが自分にそのような破壊的な効果を及ぼしていたことを自分は今までまったくわからなかったと、ショックを受ける人もいる。」(89頁)
「前操作期の患者が、このよく構造化された練習において因果的に考えることを求められると、患者は発達段階のより高いレベルで問題解決に取り組むことを求められることになる(Cowanがこれを「ミスマッチ練習」と呼ぶ所以である)。おそらくは、患者にとってこれが、自分史の中に現在の行動を予兆させるものを同定する初めての経験となるだろう。」(89頁)
ただ、治療には、注意すべきことがある。(90頁、ここでは省略)
対人関係転移仮説の構築
第2回セッションの次に、患者が重要他者に対してどのように反応してきたかを、どのように治療関係に転移しているかについて、具体的な仮説をたてる。その時、4つの領域を考慮する。
- 対人的親密さが患者もしくは治療者のどちらかに感じられたり口にされたりする瞬間
- 患者が特別な情緒的欲求を治療者に直接的もしくは間接的に示すような状況
- 治療セッションの間に、患者が何かに失敗したり明らかな間違いを犯した状況
- 患者から治療者に対して、否定的な感情(例えば、恐怖、フラストレーション、怒りなど)が、直接的ないし間接的にはっきりと感じられたり表明される状況
(91頁)
「患者がこうした最もつらい状況をセッションの中で治療者との間で体験した時は、深い変化体験へつなげていくことのできる自然の「ホットスポット」となる。治療者は、ホットスポットが突然」生じた時適切に反応するために、第3回セッションの前に転移仮説を必ず構築しておくようにしなければならない。」
(91頁)
例えば、ある患者に対して次のような2つの仮説が立てられた。
- 第1仮説
「もし私がマカロウ先生と親しくなったら、先生は私に何かを求めてくるだろう(つまり、私は先生に仕えて先生の世話をしなければならなくなり、最後には傷つけられて終わりになるのだろう)」(96頁)
- 第2仮説
「もし、私がマカロウ先生に本当に正直に接して、私がどう感じているか、あるいは私が本当はどう考えているかを伝えたならば、先生は私の言うことをバカにするに違いない(つまり私はバカで、間違っていて、大げさで、悪い人間だと私に感じさせる)」(97頁)
こうして、治療者は、患者の繰り返される反応パターンをあらかじめ想定(仮説)しておいて、患者が同じような反応を始めた時に、途中からは同じ行動や結果にならないようにもっていこうとする。
(大田)
ここまでで、3回の面接である。まだ、具体的な助言はない。だから、患者にとっても、相当に長期間(20〜30回)の通院(個別カウンセリング)の覚悟が必要である。重症の慢性うつ病であるから、当然であろう。患者も治療者も、両方ともに、時間と労力と費用を必要とする。しかし、それでも、その程度の期間で、治るのであれば、患者や家族にとって、その後の人生が大きく変わるのである。こういう治療を試みる価値がある。
「慢性うつ病の精神療法〜CBASPの理論と技法」
原著者:ジェームズP・マカロウ、
監訳者:古川壽亮(名古屋市立大学)、大野裕、岡本泰昌、鈴木伸一
発行:医学書院、2005/11/1、定価:5775円
CBASP=Congnitive-Behavioral Analysis System of Psychotherapy; 認知行動分析システム精神療法
(慢性うつ病のみに開発された精神療法である)