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治療法の現状と課題
状況分析のステップ
CBASP=アメリカの新しい心理療法
(慢性うつ病の新療法:CBASP)
第6章 状況分析の導入
第7章 状況分析の修正段階
第8章 行動を修正するために治療者ー患者関係を用いる
アメリカで開発された慢性うつ病の心理療法の概略をみていく。
第6章、7章は、状況分析の詳細であるが、ステップだけを掲げておく。8章は、患者の感情的な態度・行動を積極的に変革させようとする手法が記述される。
対処方法質問票(CSQ)
第2回セッションの終了時に、患者に、「対処方法質問票(CSQ)」を、何枚か渡す。患者には各セッション前に最低1枚、記入してきてもらう。
次のような「注意」が記載されている。
あなたに先週起こった対人間の問題状況を1つ選び、下記の書式に従って記述して下さい。
CSQには、次の6項目を記入する。
@その状況で何が起こったかを述べてください。
A起こったことについてのあなたの「解釈」を述べてください。
Bその状況下であなたが「何をしたか」述べてください。
Cその出来事があなたにとってどういう結果をもたらしたか、すなわち「現実の結果」を述べてください。
Dあなたはその出来事がどういう結果になってほしかったか、すなわち「期待した結果」は何であるかを述べてください。
E期待した結果は得られましたか?(なぜ得られたか/なぜ得られなかったか)
(80頁)
面接のたびに、患者が持ってきたCSQを見ながら、治療者は、「状況分析」を始める。状況分析のうち「明確化段階」は、次のステップで進められる。6章に詳述される。
- ステップ1:状況記述
- ステップ2:状況解釈
- ステップ3:状況行動
- ステップ4:状況における現実の結果
- ステップ5:状況における期待した結果
- ステップ6:現実の結果と期待した結果とを比較する
この「明確化段階」がおわると「修正段階」である。
修正段階は、次のステップで行われる(7章)
- ステップ1:不適切な解釈、不正確な解釈を修正する
- ステップ2:不適切な行動の修正
- ステップ3:状況分析のまとめと要約
- ステップ4:学習したことの般化と転移
- ステップ5:状況における期待した結果
- ステップ6:現実の結果と期待した結果とを比較する
面接の中で、治療者ー患者関係を用いる手法がある。(8章)
- 患者の対人的”刺激価”(IMI)の測定
「ある人物の持つ顕著な対人的インパクトを明らかにすることで、その人が他者に対して持ちうる刺激価を示すことができる」(176頁)
治療者と患者の関係が「破滅的結果になる腱反射的な行動を避けるために治療者がどのように反応すべきかを予測するのに役立つ。」(176頁)
- 欲求不満と怒りを取り扱う
慢性うつ病患者を扱う治療者(カウンセラー)は、患者の行動に対して、欲求不満や怒りを覚えることが多い。
「患者の行動によって治療者は、無視された、個人的に攻撃された、自分は無能だという感じを覚える。それらの効果はしばしば欲求不満/怒りの反応を導く。上述のように、そのような患者は自らが治療者にネガティブな影響を与えていることに気づいていない。」(185頁)
「患者に「なぜあなたは私に対してこのような態度をとりたいのですか」と尋ねる」(185頁)
- 患者への規律正しい個人的関与
患者は、これまで、周囲の人、医者、看護師などから付き合うのが困難とされて、敬遠されてきた。同じように、今の治療者に対しても態度や行動で、不満をいだかせ、怒りを起こさせる。
そういうことが起きた時は、治療者は患者に、自分の不満を伝えて(「なぜ、あなたは私をこんなふうに傷つけたいのでしょうか」と質問する等ー196頁)、患者が他の対人関係の場面での態度、行動を変えるように援助する。
(次の記事でもう少し詳細に見る)
(大田)
このように、患者からカウンセラーが怒りを覚えるようなことを言ったり、されたりすることがあるが、無視、受け流し、傾聴だけせずに、患者の態度が問題であることを指摘して、積極的に、患者の感情処理、態度、行動を修正しようとしている。患者が変革するように導かないと治らない。慢性うつ病は、このような積極的なカウンセリング技法でないと治らないとしたら、日本も、こういう手法を駆使できるカウンセラーを育成すべきである。1度や2度の電話相談、相談機関での相談、インタネット相談などでは、慢性の患者(うつ病、自殺、自傷等)には、解決困難な場合が多いのは確かだろう。相談機関だけではだめだ、治療機関が必要である。しかも、心理療法によって治療する機関が。
(この点について、本書の著者は、従来のカウンセリングの考え方を批判している。その点は、次の記事にする。)
「慢性うつ病の精神療法〜CBASPの理論と技法」
原著者:ジェームズP・マカロウ、
監訳者:古川壽亮(名古屋市立大学)、大野裕、岡本泰昌、鈴木伸一
発行:医学書院、2005/11/1、定価:5775円
CBASP=Congnitive-Behavioral Analysis System of Psychotherapy; 認知行動分析システム精神療法
(慢性うつ病のみに開発された精神療法である)