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患者への規律正しい個人的関与

CBASP=アメリカの新しい心理療法
(慢性うつ病の新療法:CBASP)
第8章 行動を修正するために治療者ー患者関係を用いる

 アメリカで開発された慢性うつ病の心理療法の概略をみていく。
 第8章の「患者への個人的関与」は、従来のフロイドやロジャーズにない手法である。

患者への規律正しい個人的関与

 面接の中で、治療者ー患者関係を用いる手法がある。

 慢性うつ病患者(もちろん、敵対的行動を示すのは一部である)のなかには、その態度、行動のために、治療者側から、敬遠されることがある。  こういう患者を治療するには、個人的な関与が必要であり、従来のフロイドやロジャーズなどのカウンセリング理論を修正する必要があるという。患者がカウンセラーに示す態度、行動のすべてを共感的に肯定することはない。そんなことをすれば、患者は自分の問題ある行動が受容されたとして自分を変えないおそれがある。こういうカウンセリング技法を批判する。 それは、対人関係療法でも、CBASPでも同様である。
(大田)
 日本のカウンセリング技法は、フロイドやロジャーズに影響を受けていて、個人的な関与をしないかもしれない。それが、日本では、長引く心の病気の心理療法がうまくいかない原因の一つかもしれない。共感し、傾聴するだけで、患者の問題ある態度(または、従来とは違った肯定的な支援を受けている事実)を指摘しない、受動的、消極的なカウンセリング技法では治らないという。患者の非機能的な反応パターン、行動パターンがカウンセラーの前でも起きてカウンセラーが嫌な思いをした場合(患者は気づいていないから)には、カウンセラーが嫌な思いをしたこと(または、従来とは違った肯定的な支援を受けている事実)を積極的に告げて、他者への共感を会得させて、反応パターン、行動を変えていくよう支援する技法が求められているという。そうだとすると、カウンセラーの資質にも影響するだろう。受動的、消極的な傾向の人は、カウンセラーには向かないことになる。今後は、カウンセラーの資質にそういうことが指摘されるようになるだろう。後に、本書でも、カウンセラーの条件が述べられている。
 カウンセラーは、患者がこれまでに接してきた他の人たちとは違うことを何度も強調するIDEの手法も、従来のカウンセリング手法にはない点である。自分(カウンセラー)は、これまでの人とは違うということを観察してもらうのも、何か自慢するようで抵抗があるカウンセラーもいるだろう。難治性の心の病気を治療するには、こういう新しい手法が効果的だというので、日本も今後学ぶべきとして、本書が翻訳されたのであろう。今後、何年かかけて難治性の心の病気の患者の支援が行われていくことだろう。