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治療法の現状と課題
患者への規律正しい個人的関与
CBASP=アメリカの新しい心理療法
(慢性うつ病の新療法:CBASP)
第8章 行動を修正するために治療者ー患者関係を用いる
アメリカで開発された慢性うつ病の心理療法の概略をみていく。
第8章の「患者への個人的関与」は、従来のフロイドやロジャーズにない手法である。
患者への規律正しい個人的関与
面接の中で、治療者ー患者関係を用いる手法がある。
慢性うつ病患者(もちろん、敵対的行動を示すのは一部である)のなかには、その態度、行動のために、治療者側から、敬遠されることがある。
「敵対的、または敵対支配的な行動を示す患者は、付き合うのが非常に困難であり、たいていの臨床の現場では嫌がられる。私は、これらの患者たちが薬物療法の担当者や看護師、秘書や受付係を含む診療所のスタッフらすべてから孤立することを見てきた。そのような人々は、言語的・非言語的に誇大的であり、人を傷つける。最も重要なことは、彼らのほとんどは、自分たちがスタッフに対してネガティブな影響を与えることに気づいていないことである。」(196頁)
こういう患者を治療するには、個人的な関与が必要であり、従来のフロイドやロジャーズなどのカウンセリング理論を修正する必要があるという。患者がカウンセラーに示す態度、行動のすべてを共感的に肯定することはない。そんなことをすれば、患者は自分の問題ある行動が受容されたとして自分を変えないおそれがある。こういうカウンセリング技法を批判する。
それは、対人関係療法でも、CBASPでも同様である。
「多くの治療者にとって(あるいは治療者でない人にとっても)無条件の肯定的配慮をあまねく行うことは困難であるのみならず、それを慢性うつ病患者に行うことは行動の帰結を学ぶことを不可能にしてしまう。行動の帰結を学ぶことこそ、行動を修正するために必須である。」(198頁)
「個人的関与に関するFreudの否定的見解もしくはRogersの非現実的見解が、20世紀を通してほとんどの期間、臨床や精神医学の訓練プログラムに著しい影響を与えている。
FreudやRogersによって概念化された、治療者の役割定義へのただ一つの重大な抵抗は、対人関係精神療法(IPT)の進展によって生じた。IPTのアプローチでは、治療者は、患者が他人にどのような影響を与えるかを教えるために、感情を出して、個人的フィードバックを与えることを促される。前述したように、Kieslerは、これらの変化のための技法をメタコミュニケーションと名づけた。」
(199頁)
(大田)
日本のカウンセリング技法は、フロイドやロジャーズに影響を受けていて、個人的な関与をしないかもしれない。それが、日本では、長引く心の病気の心理療法がうまくいかない原因の一つかもしれない。共感し、傾聴するだけで、患者の問題ある態度(または、従来とは違った肯定的な支援を受けている事実)を指摘しない、受動的、消極的なカウンセリング技法では治らないという。患者の非機能的な反応パターン、行動パターンがカウンセラーの前でも起きてカウンセラーが嫌な思いをした場合(患者は気づいていないから)には、カウンセラーが嫌な思いをしたこと(または、従来とは違った肯定的な支援を受けている事実)を積極的に告げて、他者への共感を会得させて、反応パターン、行動を変えていくよう支援する技法が求められているという。そうだとすると、カウンセラーの資質にも影響するだろう。受動的、消極的な傾向の人は、カウンセラーには向かないことになる。今後は、カウンセラーの資質にそういうことが指摘されるようになるだろう。後に、本書でも、カウンセラーの条件が述べられている。
カウンセラーは、患者がこれまでに接してきた他の人たちとは違うことを何度も強調するIDEの手法も、従来のカウンセリング手法にはない点である。自分(カウンセラー)は、これまでの人とは違うということを観察してもらうのも、何か自慢するようで抵抗があるカウンセラーもいるだろう。難治性の心の病気を治療するには、こういう新しい手法が効果的だというので、日本も今後学ぶべきとして、本書が翻訳されたのであろう。今後、何年かかけて難治性の心の病気の患者の支援が行われていくことだろう。
「慢性うつ病の精神療法〜CBASPの理論と技法」
原著者:ジェームズP・マカロウ、
監訳者:古川壽亮(名古屋市立大学)、大野裕、岡本泰昌、鈴木伸一
発行:医学書院、2005/11/1、定価:5775円
CBASP=Congnitive-Behavioral Analysis System of Psychotherapy; 認知行動分析システム精神療法
(慢性うつ病のみに開発された精神療法である)