Home 治療法の現状と課題

対人弁別練習(IDE)

CBASP=アメリカの新しい心理療法
(慢性うつ病の新療法:CBASP)
第8章 行動を修正するために治療者ー患者関係を用いる

 アメリカで開発された慢性うつ病の心理療法の概略をみていく。
 第5、8章の「対人弁別練習」(Interpersonal Discrimination Exercise: IDE )は従来のカウンセリングにない手法である。

対人弁別練習( IDE )

 面接中の治療者に対して、患者が治療者(カウンセラー)に、嫌な思いをさせる場面(ホットスポット)が起きる。患者が、従来、周囲の人に対してとってきた態度・行動を、治療者に対して向けるから、治療者が不愉快な思いをする。そういうことが患者の対人コミュニケーションがうまくいかない態度・行動だと気がついたら、修正の絶好の機会として、患者に分析してもらう。
 だが、患者が、カウンセラーを傷つけるようなことが起きた時、冷静に、その患者の周囲にいた(いる)他者とカウンセラーとは違う態度をしていることを比較してもらう。(カウンセラーは、その時、怒ったのだが虐待も、拒絶も、無視もしないで、会話を続けている)その経験を積むことによって、従来とは違う態度・行動をとるようになる。そうなるためには、それを指摘する必要がある。  IDEの方法は、次のようである。オーウェルは患者の名である。オーウェルが、最近、友人、ジェリーとの対人関係の失敗(はげしいけんかをした)を治療者(カウンセラー)に話した。すると、治療者は「その自分の失敗を母親に話したら、どうなるか」という質問をする。すると、彼は、バカにされた忌まわしい過去を思いだす。  こういう練習の繰り返しで、患者は、従来の行動様式とは違う反応を会得していく。  こうして、慢性うつ病患者の対人関係の行動パターンを変えていくことで、うつ病を回復していく。

治療者を肯定的に判断できない

 治療者は、治療者の好意的な態度を患者に確認するようにする。こうした手法をとるのは、慢性うつ病患者は、過去に、肯定的な経験をしたことがなく、肯定的なことを経験しても自覚できなくなっている。治療者(カウンセラー)の良い点を感じることさえできない。
(大田)
 慢性うつ病患者や重症の急性患者は、病気のために、判断力が相当に変わっている。長い間、薬物療法や心理療法を受けて治らず、すっかり、否定的な見方が定着している。よいものにであっても、よいものとは思わない。カウンセラーも信頼しなくなっている。
 だから、私は、患者が家族と一緒にカウンセリングにくることをすすめている。カウンセリングが効果がありそうかどうか、患者に判断能力が不十分な場合がある。しばらく、カウンセリングにかよえば、治る可能性があるのにと思うが、「家族が行け、と言ったから、来た」という患者が一人で、来ると、まず、1回だけでやめてしまう。慢性うつ病患者や重症の患者の場合、家族が同行して、家族が、カウンセラーの質、カウンセリングが効果があるかどうか判断するのがよいと思う。